プロダクションノート

鯨泉の発案から発売まで、その過程を明かします。

 

第一回は、「 LOCAL PRIDE 」です。

 

 今から十数年前、私が初めて勤めた会社では、規制緩和によって実現したマイクロブルワリー関連のビジネスを始めたところでした。マイクロブルワリー事業の立ち上げ、醸造に関するコーディネート、マーケティング支援、各種デザインからレストランのメニュー開発と、幅広い業務を扱っていました。私も数多くのプロジェクトに携わり、新しいビールが世に出る瞬間に立ち会ってきました。

 

 当時、どんなビールが売れるのか誰もが手探りであった中、クライアントへの企画書に必ず書いていた言葉が「FRESHNESS」と「LOCAL PRIDE」の二つでした。マイクロブルワリービジネスの先進国アメリカでは、成功している企業の多くがこのことを実践していたのです。

 

 マイクロブルワリーで醸造されるビールの中には、その特徴的な味わいを引き出すため、酵母を完全には濾過しないものが多く、そのため賞味期限が極めて短くなるというデメリットがありました。しかしそれは、出来たてのビールを出来たその場で味わうという、これまでになかった価値を創造できるメリットでもあったわけです。この価値こそ、一つめのキーワード「FRESHNESS」です。

 

 しかしながら、この価値はマイクロブルワリーの醸造設備を持つことができれば、誰でも提供可能なもので、差別化には至りません。そこで重要なコンセプトとなるのが、二つ目のキーワード「LOCAL PRIDE」です。ビールにストーリーを与え、ブランドへの共感を獲得するために、その土地その企業が持っている固有の歴史や文化、風土の中から、商品コンセプトに成りえるエッセンスを抽出し、練り上げてゆきます。そうして現れてくるものこそ「LOCAL PRIDE」と呼べる核心なのです。

 

 この核心となるエッセンスは、その土地その企業でしか持ちえない際だった個性を持ち、商品に反映されると強い存在感、説得力を持ちます。何よりも「LOCAL PRIDE」が感じられる商品は、値段が安いから買う、高いから買わない、というプライスのみの比較で選択されないようになります。それは、商品の背景にあるストーリーを感じ、共感し、その固有の価値に魅力を感じているからです。

 

 地方のお土産品に話を移します。高速道路のSAや観光地の土産屋に並んだ様々な商品を思い浮かべてみてください。「LOCAL PRIDE」の無い商品がいかに多いか。多くの商品には、作り手の愛が感じられません。地域の誇りが感じられません。私の企画は、ここからスタートしました。

 

 「LOCAL PRIDE」の感じられる商品を作ろう。この土地を訪れたら、そういうものを買っていただこう。